外見は普通の中学生。
だがその裏の顔は………正義の味方だったりする。


          雑誌編集者殺人事件[前編]

〜もうすぐ5000HIT記念御礼企画〜


"秘密警察官"

警察にその能力を買われ、密かに事件の解決に手を貸したり、警察の手助けをする、主に15歳以下の学生公務員。
その実体は世間には知られていないが、実力は全国レベルで折り紙付きである。
ここはそんな警視庁きってのエリートたちが集う都内某事務所。
無機質なグレーで統一され、最先端の機器が並ぶ室内で、今日も所長・西園寺玲の声が響き渡った。

、それに翼。ちょっと来なさい。」

大人の女を感じさせる黒髪の女性。
彼女がここの事務所の所長を務める西園寺玲だ。
室内の最前で、ドンと存在感のある椅子に腰掛け、片手に書類を持って2人の名前をあげる。
一方、指名された2人……は走らせていたペンを一端止め、翼はパソコンのディスプレイに向けていた顔を上げて、ほぼ同時に立ち上がると、それぞれ所長のもとへと歩み寄った。

「玲、今日は俺もも事務所勤務のはずだけど?」

先に口を開いたのは翼と呼ばれた小柄な少年。
まだ何も言われていないにもかかわらず、これから出されるであろう言葉を予想し、整った顔立ちを面倒くさそうに歪めて、目の前で書類に目を通している玲を見据える。

「そんなに私たちを怒らせたいんですか?また前回みたく痴漢のおとり捜査なんて言ったら本気で辞表提出させてもらいますよ。」

また、その隣でこちらも納得いかないような顔をしているのは、事務所の紅一点、
肩ほどの長さでくせのない茶髪と、同系色の大きな瞳が印象的な少女だ。
どちらもずば抜けて明晰な頭脳を持っており、切れ者の集まる秘密警察官の中でもとくに優秀とされている。
そして、美麗なる容姿の2人が肩を並べて睨む様子は思わずすくみあがってしまうほど。
だが、そこは所長である玲。
明らかに不機嫌そうな2人の視線に動じることなく、彼女特有のにっこりとした笑みを見せると、2人を真っすぐに見つめて、そのまま言葉を返した。

「そうね、あなた達を怒らせたいわけではないけど、今日は他に手の開いている人がいないのよ。それと翼、この事務所内では所長と呼びなさいと言っているでしょう。仮にもあなたの上司よ?」

有無を言わせない迫力で笑顔を向けられれば、さすがの翼でもチッと舌打ちをするくらいしかできない。
確かに、いつもは五月蝿いまでに賑やかなこの室内も、ほとんどの人が出払っていて、持ち主のいない机がずらりと並んでいる。
残っているのは、先程指名された2人の他には2、3人ほどだ。

「それで、所長?わざわざ私と翼を組ませて、何か事件でも入ったんですか?」

冗談はこのくらいにしておいてほしいというの問いかけに、再びにっこりと目を細める。
そして、広く綺麗に整頓された机の上に数枚の書類を並べると、こう切り出した。

「今しがた本部から電話があって、どうも解決の糸口がつかめない事件が起こったから、こちらから誰かを派遣してくれと言ってきたの。これがメールで送られてきた資料よ。なかなか厄介そうな事件だから、とくに優秀なあなたたちを、と思って。」
「それはそれは、光栄なことです。」

皮肉を込めてそう言いながらも、机に広げられた書類に視線を落とす。
ゴシック体の活字が並んでいる中に、一緒に印刷されている3枚の写真。
1人の男が写っているものが1枚、そして…

「殺人事件、ね…」

まだ事件の内容が書かれた書類は読んでいないが、残りの2枚の写真からそれは用意に想像できた。
すでに同じようなものをいくつか見てきたが、やはり見ていて気持ちのいいものではない。
床にうつ伏せになって倒れた背広姿の男性、その周りに散乱した書類の数々。
そして―――真っ赤に広がる、鮮血の溜まり。

「そういうこと。行って来てくれるわよね?」

玲の声にお互い顔を見合わせると、盛大なため息とともに、「行ってきます」という気負いの入らない言葉を残し、2人は渋々ながら事務所を後にした。


::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


「被害者は紺野充、50歳の雑誌編集者。死因は頭部強打による出血多量で、死体の状況から見て殺人と断定してまず間違えない。頭部に数箇所殴られた痕跡あり。死体が発見されたのは昨日の朝8時過ぎで、第一発見者は同じ会社の部下2人。死亡解剖の結果、死亡推定時刻は午前7時から8時までの間と思われる…と。」

事務所からそう離れていないこともあって、2人は事件現場まで歩いて向かうことにした。
歩きながら、先程送られてきたという資料を読み上げる。
一般に殺人事件といえば大騒ぎするところだが、彼らにとっては日常茶飯事。
おまけに、今回も至極普通の事件だ。

「簡単な事件ね。うちらの出る幕ないんじゃない?」
「まぁね。けど、どうしても証拠が出ないんだってさ。」
「なにが最先端の鑑識捜査なんだか。大体休日返上で働いてやってるってのにこの安月給、割に合わないっての!」

優秀な公務員である前に、2人とも現役の学生。
平日は普通に学校にも通っているので、否が応でも休日を捨てなくてはならない。
とは言っても自分たちの好きでやっている仕事なので、嫌がるということはしないが。
それでも、少しくらい文句を言いたくなるのは仕方がないだろう。

「ま、体張った仕事ばっかりの藤代や若菜とかに比べれば幾分ましな気もするけどね。」
「今回はかつあげのおとり捜査だっけ?どこにあんな図体のでかい男2人かつあげする馬鹿がいるのさ。せめて風祭とかさ〜。」
「あいつはまだ見習い。だいたいかつあげなんてされたら捕まえるどころか逃げられないだろ。」

そうこう話しているうちに、殺人現場で雑誌の編集室があるというビルの前についた。
何台かパトカーが止まっていて、事件が発生したのは昨日だというのに、未だまわりには野次馬が何重にも取り囲んでいる。
その人だかりを掻き分け、近くにいた警官の1人に事情を話し、そのままビル内に入ってく。
階段を上って、3階、「月間パズルランド」と書かれたドアの前で立ち止まると、何も言わずにドアノブを捻った。

事情聴取をしていたのだろうか、室内には数人の警官や鑑識、男女5名、そして1人の若い刑事。
翼とが入ってきたところで、一斉に視線が2人にそそがれる。
何事もなかったかのように室内にずかずかと入り込む翼と
そして部屋の中央で手帳を広げていた刑事の前に立つと、2人はそれぞれ胸ポケットへと手を入れた。

「秘密警察課のです。」
「同じく椎名。あんたが遠野警部?」

秘密警察課の者だけに与えられる特別な警察手帳。
それを見た刑事が納得したように相槌を打つ。
一方、大抵はこの動作で一般市民は騒ぎ立てるのだが、おそらく刑事に事前に説明されていたのだろう。
取調べを受けていた5人は、少し動揺したものの、過剰な反応は見せなかった。

「ああ、警視庁の遠野だ。すまないね、急に呼び出したりして。」

名乗った男の言葉に、まったくだ、と同じ考えを持つ2人。
だが、どんなに面倒くさくてもこれは仕事。その言葉が声になる前に、は本題に入った。

「早速ですけど、事件現場を見せてもらえませんか?」

とっとと終わらせて帰りたい。
結局所長には逆らえない2人の思いは今やそれだけ。
そんな考えはつゆ知らず、警部の先導のもと、一行は事件現場へと向かう。
案内されたのは同じビル内の4階、黒い革張りのソファが並ぶ談話室のような部屋で、先程の事務所のちょうど真上にあたる。
先程見た写真と同じく、たくさんの書類が散乱していて、そのどれもが真っ赤なシミを作っている。
ただ唯一写真と違う点は、すでに死体は運ばれていて、代わりに白いマーキングが施されていることくらいだろう。

「ところで」

1通り室内を見渡したところで、翼が警部に向かって口を開いた。
おもむろに取り出したのは、資料と一緒に送られてきた写真のうちの2枚。

「この写真は誰が撮ったの?」
「ああそれは…」

「あの、それは私ですが、何か……」

変わりに返事をしたのは、先程取調べを受けていた5人のうちの1人だった。
まだ20代半ばくらいだろう、若くてお兄さんタイプの男性だ。

「第一発見者の南照義容疑者だ。その写真は彼が死体を発見したときに撮った写真だよ。そうですね南さん?」
「はい、とにかく警察が来る前に、現場の状況を少しでも残しておこうと思いまして、神田さんが警察を呼びに行っている間に…」

突然名前を挙げられたことにピクッと反応して、同じく20代くらいの女性が小さく震えだす。
顔を青くして、口元にハンカチを当てて。
確かに、この血痕だらけの室内は、見ただけで気分が悪くなるだろう。
ましてや、彼女は実際に死体も目にしている。
そのことを考えれば、仕方のないことかもしれない。
そんな彼女を気の毒に思いながら、は室内を見渡す。
そして散乱している書類のうちの、比較的汚れていない一枚を持ち上げると、それに目を通した。

「……クロスワード……?」
「ああっ!ダメですよ、勝手に見ちゃ!」

口にした瞬間、1人の男性が、もの凄い剣幕での手元から書類を奪い取った。
呆気にとられていると、その男性が力強く講義の声をあげる。

「これは来月号に掲載予定の新作パズルなんです!掲載前にネタがバレたら大変でしょう?!」
「そ、それは失礼しました……(汗)」

男の言葉を聞き、そういえばこの会社は「月間パズルランド」という名のパズル雑誌を編集していると資料に書かれていたことを、記憶の中から思い出す。
同時に、人が殺されたというこの一大事にも、やはり心配するのは売れ行きなのかと、業界の恐ろしさを身にしみて感じる。
一方、部屋の入り口近くで相変わらず写真を眺めていた翼が、ふいに顔を上げる。
そして、この写真を撮影したという南容疑者に向かい、一言尋ねた。

「南さん…でしたっけ?この写真、撮影したのは何時ごろか分かります?」
「あ、はい。たしか8時5分くらいだったと……」
「そうですか。おい!いつまでも部屋徘徊してないでちょっと来い。」

自分の名を呼ばれる声に反応して、が翼のもとへと歩み寄る。
読んだ当人といえば、やはりまた写真に視線を落としていて。
不思議に思ったが、それを覗き込むようにして垣間見る。
すると、翼は写真の中のある一点を指差して、小さくに耳打ちした。

「この電卓、たしかうちの事務所のと同じ機種だよな?」
「あぁ、所長の机の上に置いてあるやつね。なるほど、ってことは…」

そして、2人は部屋の中央、写真に写っている場所と同じところに落ちている電卓へと目を向けた。
そう、死体を模った白いマーキングの、伸びた左腕のちょうど先。
赤いシミができているものの、やはりそれは事務所で見慣れた電卓と同機種のもの。
それを確認すると、翼は声を上げて警部を呼んだ。

「警部、被害者が殺されたのはその日の朝7時35分以降みたいだぜ。」
「なんだって?!」

遠野がその言葉を聞いて2人に駆け寄る。
たった1枚の写真から、一体何を見つけたというのだろうか。
警部だけでなく、容疑者5人もいっせいにそこに集まる。
全員の顔を見渡すと、翼は、淡々とした調子で話し始めた。

「ホラ、写真の電卓は電源が入っていて、『136145』って打ってあるだろ?」

写真を見て、確認する。
たしかに、発見当時の写真には、小さいながらも電卓が写っていて、打ってある『13615』という数字も確認できる。
だが、これだけでは死亡推定時刻にどう繋がるのか分からない。
翼の説明の足りない部分を補足するようには続けた。

「電卓はある一定時間放っておくと自動的に電源が落ちますよね?普通は5分とか10分なんですけど、この機種はその時間が長くて、30分なんです。もちろん、死体発見後にこの電卓には誰も手を触れていないでしょう?」
「「「「「「あっ」」」」」」
「撮影した時間が8時5分。その時まだ電源が入っていたとすれば、発見当時から30分以内には被害者は生きていたってことになるってわけ。どう、納得した?」

自信満々にそう言って、不敵に笑ってみせる。
解剖による結果とも一致しているし、これで死亡推定時刻が大幅に制限された。

「よし、では早速もういちどアリバイ調査を行いたいと思います。7時35分以降のアリバイ、お聞かせ願いますね?」
「「「「「…………。」」」」」


::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


「納得いかないわね。」
「ああ。」

再び3階の事務室に戻り、アリバイ捜査を始めた警部たちを尻目に、2人は呟いた。
容疑者は5人。
まず、第一発見者の南照義と神田碧。
次に被害者の同僚である佐藤明人。腕っ節の強そうな、大柄な男性。
そしてあの小柄で優しそうな男性が重井智弘で、眼鏡をかけた頭の良さそうな女性が沢田美代子。2人とも同じく同僚だ。
この5人のうちの誰かが犯人なのはまず間違えない。
しかし、それにしては気になる点がいくつかあった。

「まず犯行時刻。何故犯人は出勤時刻と重なるこの時間帯に殺人なんてしたのかしら。いつ人がやってくるか分からないのに。」
「そう、それに事件現場も問題だね。談話室なんて、見つかったって仕方ない場所だろ?そして、何より一番気になるのは……」

「「136145」」

3時を過ぎ、徐々に西に傾く日光が窓から差し込んでくる。
そんな中、向き合った2人の声が重なった。

「あれほど妙なものもないよね。死体の側に転がってた電卓に打ってある数字なんて。」
「おまけに、被害者の左手近くにあったんでしょ?だとすると、考えられることと言えば……」

「ええっ、それでは全員アリバイがないんですか?!」

言葉が続く前に、警部の声によってそれは遮られた。
振り返れば、立ち上がって頭を抱えている遠野警部の姿。
その表情は、弱ったな、と言いたげだ。

「わ、私たち皆一度は席を立っているものですから…」
「じゃあ南さんに神田さん、発見当時のことをもう一度詳しく聞かせていただけますか?」

半ば諦めたように警部が問うと、戸惑いながらも2人は口を開いた。

「この会社は八時出勤になっているんです。いつものように出勤すると、紺野さん以外は全員席についていました。それが…そう、七時四十分くらいでしたわ。」
「その時僕はすでに出勤して席に座っていました。ただ、いつも早く会社に来る紺野さんがいないのは不思議に思っていましたが。」
「ところが、八時になってもいっこうに紺野さんは現れなかったんです。しかもよくみると、紺野さんの机にはちゃんと鞄が置いてありました。おかしいと思った私たち二人は、一緒に紺野さんを探しに行ったんです。そしたらこの談話室で…紺野さんが…」

うっ、と涙を飲み込んで、神田は言葉を詰まらせた。
無理もない、目の前で人が死んでいるのを見て正気でいられるのは、この手の事件に慣れている警察関係者か、もしくは実際に殺した犯人くらいだろう。
神田の言葉に、その場にいた5人の表情が曇る。
そんなやりとりを見ていた翼が、再びに向き直り、そして――

「これでもう他に手がかりは望めないね。」

ため息混じりにそう言って、に同意を求めた。

「そうね、こうなった以上、あれに望みを託すしかないわ。あの電卓に残された136145っていう数字……」


「「被害者のダイイングメッセージにね」」


to be continued…

 


★ちょっとだけヒント★

ここまで読んでくださって有難うございます。皆さん犯人は分かりましたでしょうか。
まだ分からない人たちのためにちょっとだけヒント。ここを押さえて、あとは自分の推理力に任せればきっと解けると思います(なんせ考えたのが私だから…フッ)。

◎容疑者は5人
作中にも出てきたとおり、今回の事件の容疑者は5人。
まず、被害者の部下で、第一発見者の南照義と神田碧。
そして同僚の佐藤明人、重井智弘、沢田美代子のうちの誰かが犯人です。

◎殺害された現場と時間帯
翼も疑問に思ってましたでしょう?通勤時間と重なる時間帯、人目につきやすい談話室での犯行。
これも真相を握る重要なカギの一つです。

◎最大の手がかりは『136145』
電卓に残された『136145』という数字は、被害者の死亡推定時刻を特定するだけでなく、犯人を指し示す被害者のダイイングメッセージなのです。これを解くと、犯人が浮かび上がってきます。さぁ、もう分かったでしょう?ずばり、犯人はあの人です!!

なんか秘密警察がどうとかありますが、この企画のメインはあくまでも「推理」なので、あんま設定関係ないです。
それと、このページの下のほう、やけに余白ありますが……気にしないでおきましょう。
皆様のご検討を祈ります。

 

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そうそう、たとえ気にするなと言われたことでも首を突っ込むのが事件を早く解決するコツです(笑)
ここまで見に来たあなたは探偵の才能がおありかもしれません。
では、ここで重大なヒントをお教えしましょう。
見たくない人は別に見なくてもいいですよ。

あのダイイングメッセージを解くカギ……それは「電卓」にあります。
思い出してください。被害者はパズル雑誌の編集者。
そして暗号『136145』は電卓に表示されていました。
はたしてこれは何を意味するのか……
あとはご自分でお考えになってくださいね。

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